大詩人ユゴーは詠った
どこへいくのか、この飛空船は?
船は進む、日光の衣を身に着けて、
神聖で清らかな未来に向かって、美徳へ向かって、
輝き渡る科学へ向かって、
災いの滅びる世界へ、過ちを水に流す寛大な世界へ、
豊かさと、静けさと、笑いと、幸せな人間とが住む世界へ向かって!
船は進む、この輝かしい船は。

権利と理性と友愛とに向かって、
ごまかしも、包み隠しも決して有り得ない、
宗教的で神聖な真理に向かって、
心と心とを優しい絆で結ぶ愛に向かって、
正義と、偉大と、善と、美とへ向かって
―――お分かりだろう、あの船は本当に満天の世界へと昇っていくのだ!


この船は空の高みで、偉大な結婚を成し遂げる。
人類の魂を神に結びつけるともいえる。
計り知れない無限を見て、それに触れるのだ。
この船は空をめざして昇っていく進歩の大きな飛躍。
現実が傲然として神聖な姿で、
人を寄せ付けなかった古代の理想の中へと入っていく姿。

ああ!この船の一歩一歩は無限の世界を征服する!
この船は喜び、この船は平和。人類はその意志の広大無辺な代行者を見つけたのだ。
神聖な簒奪者、祝福された征服者、
この船は空を進み、毎日いっそう遠く、無限の中に分け入らせる。
真の人間が始まる。暗い点のような自分の姿を。

この船は耕す、大空の深淵を。この船は作り上げる、大空に畑を。
大暴風や、冬や、旋風や、すさまじい風の音や、
嘲りの声がそれまでは雑草のようにはびこっていた空にすばらしい畑を。
この船のおかげで、万物の和合が大空で、麦束のように刈り入れられる。
船は進む、神秘な大空の畑を豊かにしながら、
雲の畑を鋤で厳かに耕しながら。

この船は人間の命を、空の畑に芽生えさせる。
神がまだこれまでに、夕日という種しか蒔かず、
夜明けという収穫しかしたことのない畑に。
船は聞く、澄みきった穏やかな空気を裂いて飛んでいくその下で、
今や主権者となった諸国の民衆が、成長しながらざわめくのを、
民衆という広大な麦の穂のざわめきを!

この上もなく素晴らしい不思議な飛行船よ!
ただ進んでいくだけでこの船は、
変えたのだ、地上の嘆きを清らかな喜びの歌に。
若返らせたのだ、衰えた数々の民族を。
打ち立てたのだ、真の秩序を。指し示したのだ、誤りのない道を。
ユゴーは重さを悪だと考えていた。原初の幸福な状態から、被造物が堕落してしまったのは過ちを犯し重さを持ったからだとしている。

人類が重さから解放されて、限りなく光の方へ上昇することこそ、人類が幸福で輝かしい未来へ達する条件である。ゆえに、重力の支配を断ち切って大空高く悠然と舞う飛空船は、ユゴーにとって人類の進歩のこの上ない象徴になる。

物質は悪を宿す。従ってその重さの為に宙に浮かぶことはない。飛空船は悪そのものである物質で出来ている。本来は上昇することのない物質が科学技術(航空技術)によって重力の支配を断ち切り、天高く上昇するのである。これは奇跡そのものであった。

飛空船は人々を世界中のあらゆる所へ運び、諸民族の間の自由な交流を活発にする。相互理解と友情が増進されていく。やがて人類が一つにまとまり、戦争の無い世界共和国が誕生するというのがユゴーの考えであった。

ユゴーは20世紀に理想郷を描いていたのだろう。ところが現実の20世紀は戦争の世紀であった。航空機の技術は戦闘機による空中戦へと展開されていった。空からの爆弾の投下。極めつけは原爆の投下によって地上に地獄絵図を作り出してしまった。前世紀よりも遥かに多くの犠牲者を生み出してしまった。もしもユゴーがこの結果を知れば驚愕するだろう。


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